2021年6月28日

第21回研究会の報告


第21回イングランド啓蒙研究会

2021/6/27 オンライン


 前半

 本研究会の母体となっている科研費基盤Bの成果報告として、論文集の構想を参加者で議論した。論文集は全体をテーマ別に3部に分け、第1部「平明性」、第2部「自律性」、第3部「寛容性」(あるいは「多元性」)という陣立てを当初念頭に置いていたが、当日参加したメンバーの間の議論で、主に以下のような問題が指摘された。

  1. 扱っている時代や思想家が、イングランドだけでなく、アイルランドやスコットランド、フランスにまで波及しているので、タイトルを「イングランド」としてしまって良いのか。また、時代は何年から何年まで、と区切る必要があるのでは。
  2. 当初の目論見として、この17世紀イングランドの啓蒙思想から、現代人にとって役立つ考え方や、啓蒙思想の「影」にあたる部分を現代的な視点から論じる(例えば、啓蒙は未完のプロジェクトであり、我々にとっての宿題であるといった指摘)、といったアイデアがあったので、是非とも組み入れるべきではないか。
  3. テーマだけではなく、時代的な流れ、という視点もあった方がよいのではないか。

 以上のような問題点を踏まえ、原稿を持ち寄る際、あるいは編集していく際の指針にしていこう、ということでまとまった。


 後半

 フランシス・ハチスン An Essay on the Nature and Conduct of the Passions and Affections, with Illustrations on the Moral Sense (1728/1742) の講読を行った(報告者:柏崎)。

 まず、編者Garretによるイントロダクションを参照しながら、本書の概要(背景や目的)を把握した。

 次に、序文とTreatise I, Section I (Art. I.) に関して、報告者からの発表の後、 特に、ハチスンによる諸々の感覚(道徳感覚を含む)や徳の説明について、ロックやスミス、ストア派、キケロなどとの異同を中心に議論を行い、ハチスンの議論に対する理解を深めた。




2021年6月2日

第20回研究会の報告

   

第20回イングランド啓蒙研究会

2021/4/25 オンライン

 第20回研究会では、前回に引き続き、イングランド啓蒙を理解する上でも重要なフランシス・ハチスンの『美と徳の観念の起源』「第二論文」の報告と検討がなされた。

 第二論文の第一部から第三部までの報告では、道徳的善悪の知覚が自愛心ではなく道徳感覚に由来すること、有徳な行為の源には利害を離れた感情としての仁愛(benevolence = 善意、利他心)があること、行為の道徳性は行為者の仁愛と能力の複合比から利害を差し引いたものによって計られること、という議論が報告された。

 第二論文の第四部から第七部までの報告では、行為の是認が公共性への有用性と仁愛の外観から生じること、仁愛には段階があって近い対象ほど大きくなることがあること、能力・利害・損害・法の知識・絆の強さなどが行為の徳と悪徳の程度に影響を与えること、理性的行為者の最善の状態と最も価値ある幸福が普遍的で効果的な仁愛に見出されること、という議論が報告された。

 これらの報告を踏まえ、benevolenceの適切な訳語、benovolenceと道徳感覚との関係、道徳感覚と美的感覚とのアナロジー、などについて議論がなされた。




2021年6月1日

第19回研究会の報告

  

第19回イングランド啓蒙研究会

2021/2/28 オンライン

 第19回研究会では、前回に引き続き、イングランド啓蒙を理解する上でも重要なフランシス・ハチスンの『美と徳の観念の起源』「第一論文」の報告と検討がなされた。

 ハチスンにとっては「多様性を伴う均一性」に美を見出す感覚は生得的なものだとされるが、この美的感覚が一般的な基準となるかが議論された。ロックにおいて美の多様な嗜好は習慣や教育によって形成されるとされるが、ハチスンは美の対象の好みが多様であることを認めつつ、美の感覚は均一で内在的なものだとみなす。

 美的感覚の生得性・内在性を支える神の存在と性質についても議論のテーマとなった。