2023年1月6日

第29回研究会の報告

 

第29回イングランド啓蒙研究会

2022/11/20 中央大学

 

 社会思想史学会の第47回大会(専修大学、10月15日午前)でおこなった本研究会のセッション報告「イングランド啓蒙への視角――平明性、自律性、寛容性」をふまえて、同セッションの報告者三名が、論文集の全体的な構想および各部の構成にかんする草稿を発表した。

 報告者: 青木滋之、  武井敬亮、柏崎正憲


 1.論集の標題: メンバー沼尾恵の発案を受けて『啓蒙主義に先立つ啓蒙——イングランド啓蒙への学際的アプローチ』という仮題を考えている。

 

 2.論集の構想: イングランド啓蒙という研究分野がなぜ成立するか、その研究にはどんな意義があるかについて論じられた、論集の序論にあたる文章の草稿を発表。 

 【武井報告】 イングランド啓蒙という主題は、近年の研究における伝統的啓蒙観の見直し、とくに啓蒙の複数性が前提とされるようになったことの一帰結である。イングランドという場で一つの主軸をなしたのは、宗教的熱狂に対する世俗的権威および個人の保障を問題にしたアングリカンと、この問いに対して別な回答を提示した理神論者との対立である。

 【青木報告】 啓蒙の語義の拡散を避けるため、単数形のthe Enlightenmentに、人間の現世的境遇のよりよい理解と改善とを目指した「18世紀に特徴的な知的運動」(John Robertson)に照準を絞ることは、一つの方法ではある。しかし、思想史のみならず社会史の研究成果をふまえつつ、啓蒙を「より幅広い知の発酵現象」(Roy Porter)として、またしたがって複数形のenlightenmentsとして捉えるならば、そのなかにはロックやトーランドのような思想家も「プレ啓蒙」ではなく啓蒙の一要素として含められるはずである。
  


 3.各部の構成: 論集は「平明性、自律性、寛容性」をそれぞれ標題にかかげた三部構成にすることを計画している。各部の導入にあたる文章の草稿を発表。

  【青木報告】 経験と「記述的で平明な方法」による真理への接近を旨とする「実験哲学の精神」の生成と展開を、「啓蒙」という標語以前の啓蒙的運動として見るべきこと。イングランドの王立協会からジョン・ロック『人間知性論』をへてダブリン哲学協会にいたるまでの概観。

 【柏崎報告】 人間の知的自立と道徳的自律とを、カントにいたる啓蒙思想家たちに先駆けて基礎づけたのがジョン・ロックである。かれの哲学および政治学に触発されながら、すでに17世紀末のイングランドにおいて、宗教的および政治的な啓蒙のムーブメントがトーランドおよびモリニューとともに始まっていること。

 【武井報告】 イングランド啓蒙における保守的・アングリカン的な主題であった宗教的熱狂を、理神論者のアンソニー・コリンズもまた強く意識しており、それゆえに自由思想こそが寛容を促すという議論を展開したこと。このような理神論の展開に、イングランド啓蒙の特徴的要素としての寛容性の発展を見ることができること。