2020年11月16日

第16回研究会の報告

 

第16回イングランド啓蒙研究会

 

2020/11/15 オンライン

報告者: 中野安章

書評・紹介:
Peter Harrison, The Territories of Science and Religion, The University of Chicago Press, 2015. 

 

 第16回研究会では、以下のようなハリソンの Territories of Science and Religion の中心を成す「科学と宗教の双生」というテーマに沿って、まず全体の方向性が示される第一章について紹介し、次いで中心テーマが展開される第四章、第六章を中心にその内容をできる限り詳細に紹介した(その部分を含む書評については、後日、本サイト内で発表したい)。そしてそれに続く質疑では、紹介した内容に関して、参加者から様々な角度から検討が加えられ、理解が深められた。

 

 本書の著者、ピーター・ハリソンは、オーストラリアのクイーンズランド大学を本拠とし、ヨーロッパ近代の宗教思想・科学思想に関する優れた著作、論文を、多数発表している。本書はその集大成とも言えるもので、2011年にエディンバラ大学に招聘されておこなったギフォード講演を、さらに改訂して成ったものである。本書で扱われる論点は多岐に亘るが、その主要テーマを一言で表せば、「近代における科学と宗教の双生」ということになるであろう。

 我々は今日、「科学」や「宗教」が自明の存在をもつかのように語り、現代世界における活動や出来事にそれらカテゴリーを当て嵌め理解しようとする。その際ともすれば、どちらのカテゴリーについてもある特定の歴史的環境の産物であることを忘れ、それらの区別が時間や文化を超えた普遍的な妥当性をもつかのように扱いがちである。しかし科学と宗教の歴史的起源の忘却は、それらがその中で形成された過去の営為に関する誤った見方の源泉になってきたばかりでなく、現在進行中の知的、政治的、文化的な様々な事象の見方をも曇らせる可能性があるだろう。本書は、現代を特徴づける二大カテゴリーである科学と宗教の歴史的生成を辿ることを通じて、これらのカテゴリーに関わる過去と現在進行中の状況の両方について、われわれの慣れ親しんだ視点を再考するよう促す。

 ……

 

 報告全文を読む (PDF)




 

 

2020年11月13日

メンバー紹介  瀧田寧

 瀧田寧(たきた やすし)

 これまでは、ジョン・ロックの哲学(特に『人間知性論』)の意義を、モンテーニュ、パスカル、ポール・ロワイヤル論理学、ポパーと比較しながら、考察してきました。

 この共同研究では、『人間知性論』だけでなく『知性の正しい導き方』をも検討対象とし、それらがどのような影響のもとに書かれ、また受容されていったのかを、見ていきたいと思います。また、『知性の正しい導き方』と『教育に関する考察』との関わりについても、検討していきたいと思います。

 (2022年度まで)


2020年11月11日

第15回研究会の報告

  

第15回イングランド啓蒙研究会 

2020/10/18 オンライン

報告: 瀧田寧「ロック『知性の正しい導き方』における哲学教育的意義 教養としての哲学教育の現場から」

 『知性の正しい導き方』は、ジョン・ロックが自身の哲学上の主著『人間知性論』第四版(1700年)に新たな一つの章として付け加える予定でありながら、結局完成させることができず、ロックの死後、『ジョン・ロック氏遺稿集』(1706年)に収められたものである。単行本としては1741年に出版され、日本語訳は1999年に下川潔氏によるものが御茶の水書房から、2015年には同氏による改訳版がちくま学芸文庫から出た。

 本報告ではまず、発表者が所属する日本大学商学部の図書館が発行する学内誌に寄稿した本書(ちくま学芸文庫版の翻訳)の紹介文を取り上げた。学内誌の編集委員会から依頼されたテーマは、「コロナ禍との関連で読むべき本」であったが、それに続けて「苦難の中で力や知恵、生きる上でのヒントを与えてくれる本」とあったので、紹介文では特に後者のテーマを意識して、本書の第二八節「練習」と第三九節「意気阻喪」を取り上げた。この二つの節の紹介で発表者が強調したかったのは、どのような時でも、まずは自分自身の力量を知ること、そして自分に最もはっきりと捉えられるものから着手して知性の働きを漸進的に進めていくこと、という、まさに「哲学する」うえでの基本的な態度である。

 本報告ではこれに続けて、実際に商学部生を対象とする教養科目としての哲学の授業で、本書をどのように活用しているのかを紹介した。

 教養科目なので、ロックだけを扱うわけにはいかず、時間が限られている。そのため、例えば専門科目でロックの哲学を取り上げる際にはある程度時間をかけて説明する「観念」の説明も、省かざるを得ない。そのような条件のもとでは、『人間知性論』を取り上げることは難しい。けれども、『知性の正しい導き方』ならば、例えば<読書>のような誰にとっても身近な場面での知性の導き方が説かれているので、「観念」の説明を抜きにしても、ロックの経験論の意義を十分に伝えられる。

 本報告では、実際に授業で使用している配布プリントに沿って、学生に理解してもらいたいポイントを説明しながら、プリントに掲載した『知性の正しい導き方』からの引用部分を学生自身の経験に置き換えて理解させる試みを紹介した。



Cf. John Locke, Of the Conduct of the Understanding. Edited with General Introduction, Historical and Philosophical Notes and Critical Apparatus by Paul Schuurman (Doctoral dissertation, defended 10 April 2000, University of Keele, Department of Philosophy).