第13回イングランド啓蒙研究会
2020/8/1 オンライン
本研究会の会員である渡邊裕一の新著『ジョン・ロックの権利論 生存権とその射程』(晃洋書房、2020年2月)の合評会を実施した。
第一報告「ロックの生存権論の射程」(小城拓理)では、渡邊『ジョン・ロックの権利論』の内容紹介とその検討が行われた。その結果、本書はこれまで所有権論に集中していたロックの権利論研究においていかに画期的であるかが示された。
第二報告「渡邊裕一『ジョン・ロックの権利論』へのコメント」(柏崎正憲)は、同書がロックのcharitableな(慈愛を重んじる)側面や、後世の読者によるsocialな解釈に発展していく側面に光を当てたことを、主要な成果として強調した。その一方で、ロックの「生存権」とその所有権論や貧民観との緊張という論点にかんしては、渡邊の所見にたいする疑問も提示した。
ロック研究に内在的な観点としては、小城からはロックの慈愛の権利と生存権の関係性に関して、柏崎からは「救貧法改正案」のテクスト解釈に関して、著者の渡邊としても的確かつ有益と思えるコメントがなされた。
渡邊からのリプライ、他の研究会参加者からの質問と渡邊による応答が続き、活発な討論へと発展した。とくに武井による労働所有権論の位置づけと方法論上の限界に関する指摘と、内坂による生存権と自己所有権の異同に関する指摘とについては、著書の構成上重要な論点として、著者にも受け止められた。こうして本合評会では、ロックの「生存権」の包括的解明のために渡邊がなした寄与を明瞭にすることができた。