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ようこそ、イングランド啓蒙研究会のウェブサイトへ。 このウェブサイトは、17世紀イングランド発祥の啓蒙思想の研究および、この啓蒙運動のヨーロッパ/北米/日本への伝播・発展についての研究を促進し、広く発信することを目的としています。 従来の哲学/政治学/経済学/宗教思想とい...

2020年9月21日

第12回研究会の報告

 

第12回イングランド啓蒙研究会

2020/6/21, 6/28 オンライン

 

 今次の研究会は、二日に分けてオンラインで実施された。

 6月21日には、前回にひきつづきW. Molyneux, The Case of Ireland being bound by Acts of Parliament in England, Stated, 1698を読んだ。モリニューは、自然法や同意理論といったロック政治哲学から援用した諸原理のほか、イングランドのコモン・ロー、制定法、慣習など現実の法や政治の諸原理にも依拠しつつ、アイルランド議会の独立性を主張した。第一報告者(柏崎正憲)は「4. 征服者はみずから与えた譲歩に義務づけられるか」および「5. この問題にかんする先例や法学者の意見」を、第二報告者(渡邊裕一)は「6. 賛否双方の主張を考察し、全般的な結論を引き出す」を、それぞれ要約した。

 報告は、モリニューがアイルライドがイングランドに対して実質的な服従と保護を受けていることは是認しつつとしながら、一方でカトリックを抑圧しつつ、他方でプロテスタントのアイルランドをイングランドにたいして「独立した王国」として擁護するという、込み入った複雑な戦略をとっている点を明らかにした。討論においては、この複雑な戦略にかんするPatrick Kellyの指摘など、さまざまな点が主題となった。

 


 6月28日は、日本イギリス哲学会第44回研究大会(2020年3月)で開催を予定されていた、本研究会によるセッション報告を実施した(大会は新型コロナウイルス感染拡大を受けて中止、報告をペーパーのウェブ公開により代替)。

 第一報告「ホッブズの哲学方法論における「汝自身を読め」の意義」(後藤大輔)は、ホッブズが『リヴァイアサン』序論で提示する「汝自身を読めRead thy self」という方法的指針の一解釈を提示した。後藤によれば、ホッブズが『物体論』第6章12節で提示する「定義から始まる証明」(総合的方法)において「省かれなければならない」とされている「最初の」部分、すなわち「事物の感覚から普遍的原理に進む」部分に対応する。

 第二報告「カドワースにおける理性と意志について」(竹中真也)は、ケンブリッジ・プラトニストの一人カドワースの「ト・ヘゲモニコン」(魂の指導的部分)の魂における位置づけとその意義を考察した。カドワースにおいて、「ト・ヘゲモニコン」は「自律」の原理である一方で、根本的には神への「愛」という動機によって方向づけられ、恩寵の光によって支えられている。こうしたカドワースの立場を「神と人間の協働説」と竹中は評価した。

 第三報告「ロックにおける知性の限界と自律の生成」(内坂翼)は、ジョン・ロックの『人間知性論』第2巻第21章「力について」の初版と第二版における自由論の相違に関して、ホッブズ、カドワース、プラトンらの自由論との連関を通して分析した。人間の知性にかんする限界と、自己の道徳的判断にたいする各人の責任とにかんするロックの視点と、啓蒙における「自律/自立」の思想の発展との連続性を内坂は示唆した。