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2019年9月3日

第9回研究会の報告

第9回イングランド啓蒙研究会

2019/08/28 中央大学多摩キャンパス

 今回の研究会では、最初にディドロの生涯を、それから『盲人に関する書簡』の書かれた歴史的背景を確認してから、内容を検討した。そのさい、ディドロ全集の解説にある全体の構成分析に基づいて、各部の興味深い議論を取り上げ分析した。

 本書第一部では、「生まれながらの盲人のもつ卓越した能力、彼らの道徳観念や形而上学」の描写に着目した。本会の検討では、道徳観念や形而上学は身体構造に基づいて決定されるのであって、盲者、聾者がそれぞれ、異なる道徳観念や形而上学を形成するという、唯物論的、相対主義的な立場に焦点を当てた。

 続く第二部は、盲人教授ソンダーソンと牧師ホームズのあいだで交わされたという架空の対話に基づいて、ディドロが「無神論的・唯物論的見解」を開陳したところで、ここでは視知覚の問題から神学的な議論へ、つまり認識の問題から唯物論的で無神論的な議論へと変化する議論の展開に、ディドロのこの著作のもつ興味深さがあることが確認された。また、デカルトの数学的自然学と異なる、ディドロの生物学的自然学にも注目し、それとヒュームの『自然宗教に関する対話』との類似点にも言及した。

 第三部は「モリニュー問題」を扱っており、報告者(竹中)は、デカルトの幾何光学的な説明、そののちロック、バークリ、ヴォルテール、コンディヤックのこの問題に対する応答を整理し報告した。最後に、ディドロ自身の解答が、本文に基づいて検討された。(なお、補遺については、事実の描写に止まり哲学的な分析がなされていないようなので、今回は割愛した)。

 概して、『盲人に関する書簡』のもつ意義は、上述のように、認識の問題にとどまらず、それを踏まえて、存在論的、神学的な立場を表明したところにある。この発想はイングランド啓蒙の展開にひとつの参照軸を与えることになるものであろう。