第32回イングランド啓蒙研究会
2023/7/28 中央大学後楽園キャンパス(ハイブリッド開催)
【合評会】梅垣千尋「18世紀末の女性思想家たちにとっての「啓蒙」――ウルストンクラフト、モア、バーボールドのロック受容を手がかりに」
評者 柏崎正憲(早稲田大学ほか非常勤)、青木滋之(中央大学)
応答者 梅垣千尋(青山学院大学)
目下編集中の論集『 啓蒙主義に先立つ啓蒙――イングランド啓蒙への学際的アプローチ』 (仮)のための寄稿依頼に応じてくれた、梅垣千尋さんの論文「18世紀末の女性思想家たちにとっての「啓蒙」――ウルストンクラフト、モア、バーボールドのロック受容を手がかりに」の合評会をおこなった。
同論文は「女性にとって、「啓蒙」とはどのような経験であったのか」という問いに答えるために、enlighten という語がフランス革命勃発後、女性思想家たちのあいだでも多く使われるようになったことを考慮しつつ、ウルストンクラフト(Mary Wollstonecraft)、モア(Hannah More)、バーボールド(Anna L. Barbauld)の三者におけるジョン・ロックの受容を考察し、彼女らの三者三様の啓蒙思想、啓蒙観を浮かび上がらせている。そのさい著者は、啓蒙という語にかんする「現代の恣意的な定義をいったん学び落とすことで初めて見えてくる当時の人びとの地平」に迫ろうとしている。
評者の柏崎および青木は、梅垣論文の意義として、女性の権利・地位をめぐる啓蒙の両義性がいかに女性思想家たち自身にも影響したかに光を当てた点や、enlighten の用法を詳しく調べることにより、ある思想が本来の意図をこえて後続世代により利用されていく過程を浮き彫りにした点を、とくに高く評価した。
そのうえで、評者2名はいくつかの質問を投げかけた。「ウルストンクラフトが普遍主義的な、モアが差異主義的な立場から女性の権利を擁護しているとして、バーボルドの立場はどう特徴づけられるか」や「どういう意味でロックは社会契約のなかに家父長制を混入させていると言えるか」といった問いである。梅垣さんからは、バーボールドの議論の非体系性やヒュームとの近さ(convention や social virtue の重視)、議論の前提に置かれる大きな概念としての「家父長制」から距離をとりつつ当時の女性思想家たちの言葉づかいに寄り添うというアプローチ、等々について、示唆に富む返答をいただいた。
ひきつづき他の参加者からも質問や論点提起があった。ハナ・モアの保守的な女性論を啓蒙的と呼びうるかどうか(女性の劣位にかんするキリスト教の伝統的観念を逆手にとる彼女の議論の性格をどう規定すべきか)、ウルストンクラフトとモアは対極的なようでいて反ルソー陣営としては共通性があるのではないか、等々、興味深い論点をめぐって議論が盛り上がった。